講演概要

オープニングセミナー (Sep 1, 2025)
科学・技術革命を目指して
永井 健治
大阪大学 産業科学研究所 教授
#パラダイムイノベーション#外れ値#トランススケールスコープ#大規模計測
私は小学生の頃から普通とは一線を画す考えや行動をする子供でした。大学生になってもそれは変わらず、卒研では人とは違う視点で研究をやりたいと考えていました。生物系であれば普通は例えばXXXという生命現象に関わる○○○というタンパク質の機能を解く、というようなことがテーマだったりしますが、私はもっと深淵で本質的な問いにアプローチしたいと思い「生命とは何か?」をテーマに選びました。でもそれでは漠然としすぎなので、「生命とは何か?」に迫るにはどのような現象に着眼すればよいかと考え、胚発生に興味を持つに至りました。受精卵がどんどん卵割していく様子を顕微鏡下で眺めているとそこに生命が宿っている!と思ったからです。卒研ではアフリカツメガエルのシュペーマンオーガナイザー(形成体)がどのようにしてでき、それがどのように胚発生を支配していくのかに関する研究を行いました。しかし当時(1991年)の研究手法は私を満足させるものではありませんでした。指導教官には生意気にも「こんな研究手法では何も分からないですよ!」と噛みついたものです。2000年に初めて学会年会のシンポジウムで口頭発表した際には聴衆に向かって「皆さんの研究は生物学ではなく死物学です。なぜなら固定した(死んだ)試料を計測しているからです。今から生物学とはどういうものかをご覧いただきます」と言い放ち非常に顰蹙を買いました。帰りの空港ではほぼ総スカンです。こんな感じで何も変わらず今に至ります。でも気にしていません。話をするたびに少しずつですが理解者が増えていっているからです。私のモットーは「自我作古」(「道なきところに道を作る」「自身が歴史を作る」)です。故に「流れに棹さす」つまり、流行に乗ってある事柄の勢いを増すような行為をすること」の真逆「流れに掉ささない」を是としています。本講演ではこのような私自身の哲学に始まり、開発してきた技術の概要や応用例を紹介しつつ、少数性生物学やシンギュラリティ生物学、外れ値の科学、ジュール発熱などを含む生命科学における新たなパラダイムの必要性と今後の展望さらにイノベーション(社会変革)についてお話しします。
参考文献