講演概要

分科会 (Sep 2, 2025)
細菌とファージの世界
御手洗 菜美子
コペンハーゲン大学 ニールスボーア研究所 准教授
#細菌#ウィルス#空間構造
細菌に感染して増殖するウイルスであるファージは、分子生物学の黎明期には中心的なモデル系として研究され、遺伝や進化の理解に大きく貢献してきた。さらに近年では、生態学的な役割やファージセラピーをはじめとする応用面からも注目を集めている。
本講演では、まずファージとは何か、その基本的な構造や感染の仕組みや、細菌のもつ対ファージ防御機構などついて簡単に紹介した後、細菌とファージが示す様々な振る舞いについて議論する。具体的な話題として、以下を予定している。
(i) 生態系の多様性と頑健性:複数の細菌とファージが共存する生態系において、ファージが複数種類の細菌に感染する場合、細菌やファージの侵入に対する生態系の頑健性がどのように影響を受けるか[1]。
(ii) 空間構造の影響:細菌が密集してコロニーを形成した場合のファージ感染への影響[2,3]、および細菌が走化性を示す場合のファージとの相互作用やパターン形成。
(iii) 感染多重度(MOI, Multiplicity of Infection)に依存するファージの振る舞いが増殖戦略に与える影響。
これらのトピックを通じて、細菌とファージの面白さを伝えることを目指す。
参考文献
- [1] Marantos, A, et al. From kill the winner to eliminate the winner in open phage-bacteria systems. PLOS Comp. Biol. 18(8):e1010400 (2022).
- [2] Eriksen, RS, et al. A growing microcolony can survive and support persistent propagation of virulent phages. Proc. Nat. Acad. Sci. 115(2):337-42 (2018).
- [3] Yadav A. et al. Self-organized coexistence of phage and a population of host colonies, BioRxiv https://doi.org/10.1101/2024.09.02.610744 (to be published in Phys. Rev. Lett.)