講演概要

板尾 健司

分科会 (Sep 2, 2025)

普遍人類学への招待:人間社会の多様な構造の生成原理

板尾 健司

理化学研究所 脳神経科学研究センター 基礎科学特別研究員

#普遍人類学#人類史#マルチレベル進化

遠く離れた地域の文化がよく似ていることがあるのはなぜか?異国の地でふと懐かしさを感じた体験を語る旅人は少なくない。また、文化人類学者たちは異なる大陸の社会が、社会構造の観点ではよく似ている事例を多く観察している。私は、よく似た文化が生まれるのは、人間が社会を作る限りにおいていつでも成り立つ「文化を生む仕組み」があるからだと考えている。今回は、親族構造と贈与という文化人類学の古典的なテーマを二つ取り上げて、数理モデルのシミュレーションによって人類史を研究する普遍人類学の試みを紹介する。

 

講演の前半では「太陽の子孫は月の子孫と結婚しなければならない」というように、人々が所属するカテゴリーに応じて誰と結婚すべきかを定める規則が生まれる仕組みを考える。結婚によって義理の親族と連帯し、ライバルとは対立するという人間社会に普遍的な相互作用をモデル化することで、人々が自発的にいくつかのカテゴリーを形成し、カテゴリーに基づく結婚の規則が生まれること、すなわち親族構造が進化することを示す。

 

後半では、「モノをもらったらお返しをしなければならない」という原理に基づく贈与の相互作用をモデル化する。文化人類学では、お返しの時に、もらったより多くを返さなければならない、という習慣があることが知られている。そこで、シミュレーションによって、贈与の頻度とお返しをするときの利率が増えるにつれて、社会が階層的に組織化されることを示す。

 

参考文献

  • [1] Itao, K., & Kaneko, K. Evolution of kinship structures driven by marriage tie and competition. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(5), 2378-2384. (2020).
  • [2] Itao, K., & Kaneko, K. Formation of human kinship structures depending on population size and cultural mutation rate. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(33), e2405653121. (2024).
  • [3] Itao, K., & Kaneko, K. Emergence of economic and social disparities through competitive gift-giving. PLOS Complex Systems, 1(1), e0000001. (2024).