講演概要

分科会 (Sep 2, 2025)
光と分子の対話が織り成すロドプシン・ユニバースの深層理解に挑む
井上 圭一
東京大学 物性研究所 准教授
#ロドプシン#オプトジェネティクス#光生物学
ロドプシンは動物の視覚や細菌のイオン輸送に関わる、光受容型の膜タンパク質であり、レチナール発色団を用いて光を捉え、そのエネルギーにより分子機能を駆動する。ロドプシンの研究は、古くは19世紀に遡り、特に20世紀後半に動物の視覚ロドプシンや、光駆動型プロトンポンプであるバクテリオロドプシンに代表されるイオンポンプやセンサー型の分子を中心に膨大な数の研究が行われた。その中では、時代と共に最先端の分光計測法や分子生物学的な実験法、構造解析法などがいち早く応用され、その主要な分子メカニズムのほとんどは解明されたと考えられていた。
しかし、2000年頃からゲノム・メタゲノム解析技術の発展に伴い、莫大な数のロドプシンが次々と発見され、現在ではその数は10万種を超える。そして、その中には機能や分子メカニズムが、従来の古典的な分子とは大きく異なるものが数多く含まれ、ロドプシンはレチナールと7回膜貫通ヘリックスからなる共通構造から、驚くほど多様な分子機能を達成していることが明らかとされてきている[1,2]。中でも、光開閉式のイオンチャネルとしてはたらくチャネルロドプシンの発見は、神経の光操作を可能とし、オプトジェネティクスの創成につながった。
本講演では、急速に拡大するロドプシン研究とそこから導き出される学理、将来の展望について、我々の最近の研究成果を含めて説明する。さらに、機械学習や自動化実験を用いた新たな分子開発法についても紹介する[3]。

参考文献
- [1] Inoue, K. et al. A Light-driven Sodium Ion Pump in Marine Bacteria. Nat. Commun. 4, 1678 (2013)
- [2] Pushkarev, A., Inoue, K. et al. A Distinct Abundant Group of Microbial Rhodopsins Discovered via Functional Metagenomics. Nature 558, (2018)
- [3] Inoue, K. et al. Exploration of Natural Red-shifted Rhodopsins Using a Machine Learning-based Bayesian Experimental Design. Commun. Biol. 4, 362 (2021)