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「ソフトマター」とは、その言葉の通り 「やわらかいもの」である。非常に曖昧な定義ではあるが、1991年にノーベル物理学賞を受賞したPierre=Gilles de Gennesという人物がノーベル賞の受賞講演のタイトルとして「softmatter」という言葉を使ったことから、彼が研究の対象として扱ってきた「やわらかいもの」たちが「ソフトマター」と呼ばれるようになった。もう少し厳密な言い方をするならば、「ソフトマター」とは「その物体自体の変形やその物体の内部構造の変化が無視できないほど大きくなるくらい柔らかいもの」である。例えば、水や油などの液体や液滴、シャボン玉、手洗い用石鹸の泡、輪ゴムやひも、紙やフィルム、高分子、液晶、ゲル、細胞、ヒトの身体、、、などは全てソフトマターである。私たちの身の回りにある多くのものがソフトマターと言っても過言ではないかもしれない。これらソフトマターの振る舞いは時に複雑で多彩であり、見ている者を虜にし得るが(少なくとも私は虜になっている一人である)、これは一方で、物理学の観点からは、これら現象が非平衡・非線形的であり、それ故、その物性や関連現象の静力学・動力学、メカニズムの解明が難しいことも示唆している。しかし、そのような複雑な現象から驚くべきシンプルな物理法則が発見されることもある。さらに、生き物自体や生き物の行動にもソフトマターが関係している場合が多く、これらの事柄に対しても物理的に説明できる場合がある。本講演では、このようなソフトマター研究の背景と、生き物自体や生き物の性質および行動に関係したソフトマター研究を紹介する。また、これらが自発的に動く場合や、さらに多数集まって群れになった場合(アクティブマター)の振る舞いなどについても議論したい。