講演概要

分科会

より迅速かつ高精度な結晶構造解析を目指して—解析ソフトウェア開発の現場から

山下 恵太郎 (東京大学 先端科学技術研究センター 准教授)
#結晶構造解析#クライオ電子顕微鏡

 タンパク質や核酸といった生体高分子の多くは,固有の立体構造を形成することで機能を発揮します.現在主流の構造解析手法としてX線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡が挙げられますが,私はこの両手法に対して,より迅速かつ高精度な解析を可能にすべく,ソフトウェア開発を進めてきました.

 大型放射光施設SPring-8のBL32XUをはじめとするマイクロビームビームラインは膜タンパク質結晶などの微小結晶試料から高いS/N比での回折強度測定が可能です.しかしながら,微小結晶から完全かつ高分解能なデータを得るには多数の結晶を使う必要がありました.このようなデータ収集を効率的に行うため,私は高速な結晶座標検出のためのSHIKAと,自動データ処理のためのKAMOを開発し,理化学研究所の平田博士と共同で全自動データ収集システムZOOを実現しました.これによって,SPring-8の高輝度特性を活かした高効率なデータ収集が実現し,高難度な結晶構造解析を加速させることができました.

 結晶構造解析では,回折データを得た後に位相決定・モデル構築・構造精密化と進みます.回折データ収集およびデータ処理はその後の解析精度を決定づける非常に重要なステップですが,構造モデルを実験データに対して最適化する構造精密化計算もまた実験データを活かし切るうえで重要です.現在私は次世代の構造精密化プログラムであるServalcatを開発しており,たとえば結晶回折強度をそのまま用いる構造精密化および密度計算などに取り組んでいます.実験データをより適切な形で用いることで,より正確な構造と,解釈しやすい密度マップを得ることを目的としています.

 一方,最近はクライオ電子顕微鏡による単粒子解析も盛んに行われています.本手法は2013年頃に起きた分解能革命以降,急速に普及し,2020年には原子分解能(1.2 Å)での構造決定も報告されました.Servalcatでは単粒子解析法のための精密化機能も実装しているので,時間が許せば本手法についても触れたいと思います.

← プログラムに戻る
Tweets by bpwakate