講演概要

オープニングセミナー

近い相互作用と遠い相互作用:タンパク質とRNAの構造形成

髙橋 聡 (東北大学 多元物質科学研究所 教授)
#タンパク質のフォールディング#一分子蛍光分光法#SARS-COV2ヌクレオカプシッドの構造形成

米国に留学していた頃(93年〜95年)、私は毎週末にサイエンス誌を読むことを楽しみにしていました。私は分光学を基礎としたタンパク質研究に取り組んでおり、ラピッドミキシング装置を開発してシトクロム酸化酵素の初期反応中間体を観察するなどのプロジェクトに熱中しながらも、自分の将来の核となる研究テーマを模索していました。ある時「今テーマを選ぶとしたらタンパク質のフォールディングだ」という記事が目に入り、さらに関連文献を読むことで、タンパク質フォールディング問題の解明に私が開発した装置が使えるらしいことに気づきました。 タンパク質のフォールディングはアミノ酸一次配列上で近い残基間の相互作用と、離れた残基間の相互作用がバランスを保って働くことで達成されます。しかし、当時はこれらがどう時間変化するのか、ほとんど研究がありませんでした。これは面白そうだ、装置を使ってタンパク質の構造形成を調べる研究を始めようと考え、ボスとも相談して留学中に実験を開始しました。日本に帰国後も、この時の構想に沿って研究を進めてきたと言えるかもしれません。

このように書くと、私は強力なビジョンを持って研究を進めてきたかのように思われるかもしれません。しかし、そうではないのです。留学中に一緒に実験をやってくれた博士課程学生の何気ない一言や、当時のボスの意見、修士課程や博士課程の指導教員のアドバイスなど、その時々の身の回りにいた(近い距離にいた)人々や、文献や学会などで知った(遠い距離にいた)研究者との会話からヒントを得て、もちろん自らも一生懸命考える中で、出会いと偶然に導かれて研究テーマを決めてきたように思います。 本講演では、タンパク質のフォールディング研究の進展を、個人的な経験を交えながら紹介したいと思います。私が採用した分光学的な研究アプローチは、アルファーフォールドなどの情報科学的なアプローチに比べ、タンパク質構造の予測を行う目的ではほとんど寄与することができませんでした。しかし、私たちの研究アプローチはより高次の構造形成過程、例えば、SARS-CoV2のヌクレオカプシッドの構造形成の解明に適応できると考えています。私たちの最近の研究努力についても説明したいと思います。

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