講演概要

サイエンスコミュニケーションセミナー②

実はあなたも既にやっている:異分野への越境としての科学技術コミュニケーション

川本 思心 (北海道大学 大学院理学研究院 准教授)
#科学技術コミュニケーション#専門知#ポストノーマルサイエンス#ELSI/RRI

「科学技術コミュニケーション」は研究活動の中心を担っている理念・活動であり、皆さんもおそらく何かをやっているはずです。とはいえ、当たり前すぎて意識することは無いかもしれません。科学技術コミュニケーションを定義することは難しいですが、ここでは「異なる専門性や価値をもつ人々の間になされる、情報伝達や知識・価値創造」と暫定的に定めることにします。これだけだとなぜ皆さんも科学技術コミュニケーションをやっているのかわからないと思いますので、順に説明していきましょう。

普段の研究生活では、同じ分野の研究者や学生の間に、統制された専門用語の使用や規範があり、それに基づいて新しい知識や技術をつくりだしていきます。ただし、研究はそのような活動だけでは終わらないということは、少し丁寧に日々を思い浮かべてみれば自ずからわかるはずです。家族や地元の友人に研究のことを話すとき(そもそも話さないかもしれませんが、それはすでに特徴的な現象です)、一般向けイベントで高校生に研究を紹介するとき、研究助成組織に申請書を書くとき、少し違う分野の研究者と共同研究をするとき、そして自分の研究は何か社会にとって意味があるのだろうか・・・とふと思うとき。これらはすべて科学技術コミュニケーションのひとつと言えます。研究室を主宰するようになれば、想定し、コミュニケーションしなければならない対象はさらに広がっていきます。

皆さんが科学技術コミュニケーションを既にやっているということは、ある程度納得してもらえたかもしれません。では、なぜそれが研究活動の中心といえるのでしょうか。研究とは、旧来の枠組みを超えて新しい知識を作り出し、広げていく活動です。また研究は、単に所属大学や学界といった狭い組織ではなく、人類そのもの、公共のためのものであるという規範があります。これは一見当たり前のように思えてしまうかもしれませんが、企業や国家を例に挙げれば、研究者というコミュニティの特殊性がわかるでしょう。このように、科学の中心部分には、必然的に境界を越えていくという基本的な性格があるのです。

一方で、研究者コミュニティ内のコミュニケーションというのは、既に述べたように、厳密な意味統制と価値共有のもとに成されるものであり、日常のコミュニケーションとかなり異質です。しかし、それに気づかず外でも同じようにコミュニケーションをしてしまうことで、すれ違いや軋轢が生じてしまいます。また、そもそもの問題として、社会に負の影響を与えてしまいかねない研究を知らぬ間に進めてしまう可能性もあります。科学は非常に大きな力を持っており、適切に発達させていく責任も、研究者として担わなければいけません。

このように、科学技術コミュニケーションは研究において必要不可欠な要素と言えます。講演では、なぜ改めて1990年ごろからこのような科学技術コミュニケーションが必要とされるようになったのか、どのような社会的な事例があり、どのような基本的な考え方があるのかを紹介します。学生として科学技術コミュニケーションに意識的に取り組むきっかけになればと思います。

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