講演概要

分科会

全長2 mのヒトゲノムDNAは細胞内にどのように収納されているか?

前島 一博 (国立遺伝学研究所 / 総合研究大学院大学 教授)
#DNA#ヌクレオソーム#クロマチン#超解像イメージング

私たちの体は約40兆個の細胞から構成されており、それぞれの細胞核には全長約2mのヒトゲノムDNAが収められています。負の電荷を帯びた細いひも状のDNAは、正電荷を帯びたタンパク質であるヒストンに巻きつき、ヌクレオソームという構造体を作ります(図参照)。約2 mのDNAで構成された長いヌクレオソームの連なりは、どのようにして小さな細胞核に収納され、どのように振る舞うのでしょうか?

従来の説では、ヌクレオソームは規則正しく配置され、直径30 nmの線維を形成し、さらに螺旋状に折り畳まれて階層構造を作るとされていました(図下段)。この説によると、あるタンパク質がゲノムDNAの特定の領域に結合するためには、多くの階層構造をほどき直す必要があります。しかし、私たちはヒト細胞内のヌクレオソームの線維が30 nm線維などの規則正しい階層構造を作らず、むしろ不規則に折り畳まれていることを明らかにしました(図上段)(Maeshima et al., Curr Opin Cell Biol 2019)。この不規則な折り畳み構造から、ヌクレオソームは物理的にあまり束縛されず、流動的であると予想されました。

実際、単一の分子を観測できる一分子顕微鏡を用いて、生きた細胞内の個々のヌクレオソームの動きを追跡すると、ヌクレオソームはその場でダイナミックに揺らぎ、短い時間においては液体のように振る舞うことが判明しました(Iida et al., Science Adv 2022; Nozaki et al., Science Adv 2023)。また、超解像顕微鏡を用いて細胞内のヌクレオソームの分布を高解像度で観察すると、ヌクレオソームが直径約200 nmのクロマチンドメインという塊を形成することも分かってきました(図上段)(Nozaki et al., Mol Cell 2017; Nozaki et al., Science Adv 2023)。

本講演では、これらの知見の生物学的な意義についても議論したいと思います。

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