summer school

第56回生物物理若手の会 夏の学校(9/2〜9/5)

無生物から生物の科学

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オープニングセッション

 夏の学校のトップバッターを飾る講演です.

 毎年,生物物理分野の広範囲を見渡す講演や,若手を激賞する講演を行なっておりますが,本年は,テーマ「無生物から生物の科学」のイントロとして,他にないアプローチ,スタンスに立って「生命」と対峙している先生をお呼びします.

 独特な生命観をもつ講師による講演を通して,「生命」にまつわる問題意識の共有を行うとともに,多様なアプローチが可能な「生命らしさ」への問いかけの深さを再確認し,『「生命」とは何か?』を考えることの意味自身に参加者を誘いたいと考えております.


題目:「意識とか何か」を理解すること・「生命とか何か」を理解すること
講師: 郡司ペギオ幸夫 先生
所属:早稲田大学 理工学術院 表現工学専攻 教授
 物質と意識を統合する理論の困難さを,哲学者チャーマーズはハードプロブレムと呼び,この二元論の克服を広く呼びかけた.現代の脳・認知科学は,客観に対峙する主観を現象学的観点から捉えんとし,二元論に留まり続ける.これに対し,分析哲学者のスタインバーグらは,科学主義的一元論を放棄した上で,二元論の克服を志向し,中立一元論しか道はないだろうと唱える.それは温度のような物理的測度に対し,温かさといった主観的感覚も,意識を持つ人間において生成されたのではなく,もともと物質の中に存在すると考える哲学だ.

 中立一元論は,一見科学の根幹を揺るがす生気論である.これを科学に接続する唯一の道こそ,内在物理であり内部観測である.物質の中に潜在する主観的質は,物質が独我論的に記述される果てに出現するもので,主観的質を潜在させる観測者は,決して閉じていない.独我論の破綻を見通すことで,物質には観測の潜在が見出され,中立一元論は科学に接続する.講演では中立一元論と脳科学を接続する具体的方法を示し,生命とは何かについて同様のアプローチが可能なことを示す.