タイトル:「ナノとバイオとフォトンの時代」
講師:河田 聡 先生 (阪大・フロ)
オーガナイザー:西川 正俊 (阪大・基礎工)
世界一小さな牛。多くの皆さんが新聞やいろんなメディアで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。体長8μm、高さ5μmのその牛は造形物として非常に繊細で、彫塑と呼ぶのがふさわしいでしょう。本講演はこの牛の作者である“光の魔術師 河田聡”です。
世界一小さな牛の角や尾は回折限界を超えるため、普通の光学顕微鏡では見る事ができませんでした。しかしここ40年のレーザー技術の発展は目覚しく、それに対応して顕微鏡技術も躍進を続けているのは周知の事実と思います。実はこの牛も最新のレーザー顕微鏡技術により創られたものです。フェムト秒レーザーを対物レンズで集光すると時間的・空間的にフォトンを局在させる事ができ、2つのフォトンを使って1つの電子を励起させることができます。これは多光子過程と呼ばれ、フォトン密度の2乗に比例した確率で起こるため、回折限界以下の微小空間でのみ光化学反応を誘起する事が可能となります。世界一小さな牛は多光子過程を用いて光重合性樹脂に重合を引き起こすことにより作成されたのです。他にも、生体内を透過しやすい赤外光を用いた2光子励起による細胞内のカルシウムイオン波のイメージングなども行われており、多光子過程は生体観察への応用も有望なアプリケーションとして考えられています。
河田先生は近接場ナノ光学顕微鏡や,近接場ナノ分光法による分子イメージングなど顕微鏡に関して世界を牽引する方でありますので、顕微鏡光学を駆使する河田先生にかかればこんなものも見えるという感じで話していただけると思います。日々顕微鏡と格闘する方も、そうでない方も、最新の光学顕微鏡に触れるまたとないチャンスですのでふるってご参加ください。