「“タンパク質の折畳みと動力学”」
オーガナイザー:大口 真次(名大・人情)
堀田 剛史(名大・人情)
講師:片岡 幹雄先生(奈良先端・物質創生)
近年ゲノムプロジェクトによって、ヒトゲノムの一次配列が明らかになり、ポストゲノムの研究が注目されています。ポストゲノムにおいては、タンパク質がどのように生体内で機能を発現しているか、ということが研究の中心となり、ファンクショナルゲノミクスとして、すべてのタンパク質の機能が網羅的に明らかにされようとしています。しかし、タンパク質が機能を発現するに当たって、それ自身が持つ構造や性質がどのように機能に関わっているのか、という疑問を解決するには、ただ機能を網羅的に調べるだけでは不十分です。
ところで、私たちは、X線結晶構造解析により決定されたタンパク質の立体構造を、コンピュータグラフィクスの画面上で、詳しく眺めることが出来、その構造の美しさや、複雑さに、感動すら覚えます。ですが、グラフィクスで見せられる図からは、タンパク質は静的で固い、という印象を受けてしまいがちではないでしょうか?
タンパク質の機能の発現は、タンパク質の動的性質と深く関わっています。酵素の基質との結合を例に挙げると、”induced fit”という基質が酵素分子に結合すると酵素分子自身が、そのコンホメーションを変えて触媒機能を発現しやすいように構造変化を起こします。他にも、タンパク質の折畳みは、タンパク質のダイナミクスが直接関わってきます。このように、動的性質はタンパク質の機能を理解するために欠かすことが出来ません。
片岡先生は、タンパク質の折畳み、機能と動力学との関係に関する実験的な研究や、中性子非弾性散乱によるタンパク質の動力学に対する研究を行なっていらっしゃいます。先生が用いておられる測定方法の一つである中性子非弾性散乱という方法は、タンパク質の振動運動を定量的に記述することができます。この情報は、X線溶液散乱や結晶構造からは得られません。また、この測定方法から得られるスペクトルは基準振動解析により説明することが出来、現在、中性子非弾性散乱による精度の良い実験データの蓄積と、理論的研究との密接な協力が望まれています。
この分科会では、比較的小さな水溶性タンパク質SNaseをモデルタンパク質として、折畳み、機能と動力学との関係に関する実験のデータや結果、及びこの分野の研究の最前線などについて紹介して頂きます。
実験についての知識がある人は勿論、詳しく実験のことが分からない人でも、タンパク質の“柔らかさ”について一緒に考えてみましょう。皆さんふるってご参加ください!暑い京都での熱い議論を期待しています。