オーガナイザーによる分科会紹介


タイトル:「振動分光法でみるタンパク質のダイナミクス」

オーガナイザー:古谷 祐詞 (京大・理、名工大・工)

講師:北川 禎三 先生 (岡崎機構・統合バイオ)

タンパク質の3次元構造がX線結晶構造解析、NMR分光法、電子線結晶構造解析により数Åの分解能で解析されるにつれて、タンパク質の構造変化(ダイナミクス)の研究においても、現象を原子レベルで記述することの重要性が増しています。また、詳細な立体構造に基づいて、様々な時間領域(ピコ、ナノ、マイクロ、ミリ、秒)でアミノ酸側鎖やペプチド骨格の構造がどのように変化するのか、そしてそれらの構造変化がどのようにして機能に結びついているのか、このような設問に実験、および理論によって答えることは構造生物学の一つのメインテーマです。

当分科会においてはタンパク質のダイナミクスについて振動分光法(ラマン分光法および赤外分光法)を用いて長年、研究をなさってこられた北川禎三先生に、振動分光法を始められた頃からさかのぼって現在に至るまでの苦労されたこと、発見されたことなどを語って頂こうと考えています。先生が研究を開始された1960-70年頃、最初のタンパク質の立体構造(ミオグロビンとヘモグロビン)が報告され、タンパク質が親水性残基を表面に疎水性残基が内側になるように折れ畳まれていることが明らかとなりました。現在ではどのようにしてタンパク質が折れ畳まるのか(タンパク質のフォールディング問題)について理論的、実験的研究が数多く行われています。そのような問題に対して振動分光法はどのような情報を与えてくれるのか先生に語って頂こうと考えています。また、タンパク質の中にはその機能を発現するのに重要な低分子が補酵素として結合しているものがあります。ミオグロビン、ヘモグロビンにはヘムが結合しており、その活性中心に酸素が結合解離することが機能に重要です。先生にはミオグロビンの一酸化炭素光解離メカニズムの研究を通してタンパク質の構造機能相関について語って頂こうと考えています。また、ヘモグロビンにおいては、酸素結合に伴って引き起こされるタンパク質の4次構造変化(タンパク質間相互作用)が、酸素親和性制御に重要です。このようなタンパク質の4次構造変化について振動分光法がどのような情報を提供してくれるのかについても語って頂こうと考えています。

ここで紹介しきれなかった研究について、また先生が歩まれてきた研究人生についても分科会に参加して頂ければ聞くことができるかもしれません。皆様の御参加と活発な御討論を期待いたします。